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2012年度(第2回) 選考状況

2012年度(第2回) 選考状況

2次選考通過作品 順不同

2次選考通過作品 順不同
  • 『将軍の象』 高田在子(たかだ ありこ)
  • 『鬼船』 水月彩人(みずき あやひと)
  • 『水兵リーベ僕の艦』 時武ぼたん(ときたけ ぼたん)
  • 『ガンテツ』 山田英樹(やまだ ひでき)
  • 『蝶の舞うリング』 安西景子(あんざい けいこ)

将軍の象 / 高田在子(たかだ ありこ)

あらすじ

将軍吉宗の治世。駒場薬園の勤める山本守之介は、幼なじみの植村左平次とともに、長崎に到着した二匹の象が江戸まで向う道中を同伴する任を与えられる。草の知識が豊富な二人は象の餌を管理する役目として同伴するが、象の殺害・誘拐を狙う者 たちによって遮られ、決して平たんな道のりではない。二人は無事、象を江戸まで送り届けることができるのであろうか。

二次選考・選評

史実をもとに旅の道中の顛末を描き出した意欲作。将軍をとりまく幕府の陰謀や伊賀忍者による妨害など、おおよそ象の運搬には関係ないであろう奸計を豊かな想像力で盛り込んであって読者の興味を惹く。主人公が周囲の人間の手助けを借りながら知恵を絞り命を懸けて無事に象を送り届ける様は痛快。

緻密な計算によって過不足なく書かれた作品。何よりも象がよく描けており、愛着を覚える。象を江戸まで歩かせるための工夫も無理がなく、受け入れやすい。象の一挙手一投足に一喜一憂する主人公たちの姿もユーモラスだ。横糸として配置される守之介と雪絵の恋物語も終盤に向けてうまく効いている。後日談の内容とボリュームもバランスが取れていて、他の候補作が結末で失速しているものが多いのに対して、ここでも頭ひとつ優れている。

文章力は非常に安定しており、作品世界に対して違和感のない表現になっている。 他応募作も含め、この辺りの時代、及び、薬草関係の知識が深いであろうことが伺えるが、その知識の提示の仕方も押しつけのような描写ではないため、違和感はない。史実をベースとした物語であり、主人公の設定などは本作だけならば新鮮な感じもするが、他応募作を含め考えると、この辺りのお話しか書けないのではないかという危惧はある。

江戸時代に象を長崎から江戸に運ぶという設定がまずいい。プロットレベルでは破綻はなく、文章も安定しているので非常に読みやすい。史実を基にした歴史小説としての雰囲気も文体などにしっかり反映されており、作者の手腕が光っている。
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鬼船 / 水月彩人(みずき あやひと)

あらすじ

七代将軍吉宗の治世。小旗本の鏑木信之介は海賊に襲われ、自船・千歳丸と仲間たちを失ってしまう。腕に覚えがあるということで海賊・阿蘭党にとらわれた信之介は客分として彼らの住む島・館島に招かれる。そこは何よりも自由を尊ぶ独立国家だった。阿蘭党の次期頭領の兵庫やその妹・伊世、そして島の生活を見ているうちに、かつての生活が窮屈だったことに気付く信之介。だがある日、イスパニアの船が館島を訪れ、戦いの日々が始まる。

二次選考・選評

確かな文章力で近代日本の海賊の姿を魅力的に描いているのは見事。ただ、史実との合致を重要視したせいか、物語としての爽快感にかけるのが難点。また冒頭から登場しストーリーを引っ張っている工藤主馬については、とても魅力的なキャラクターでありながら落としどころが悪いように感じた。このキャラクターをもっとうまく活用することでスペイン艦隊を撃破し大団円を迎えるというエンディングを創出することもできるのではないだろうか?

冒頭は大航海時代を舞台にしたスケールの大きな海洋アドベンチャーを予感させる。南洋の豊かさと古い武家社会の共存する館島の描写も魅力的だ。ところが、後半はスペイン船団対阿蘭党との血で血を洗う戦闘描写に終始してしまい、凄惨な印象しか残らない。「阿蘭党の活躍と本土より豊かな館島』『伊達家再興のため単身世界を駆ける工藤主馬』のどちらかに絞れば痛快な冒険小説2作を読むことができたのに、両方を一作の中に詰め込んだ結果、ひたすら人が無駄死にする後味の悪い作品になってしまった。

文章力、キャラ造形・書きわけも安定しているのは好感触。時代ものではあるが文体の選択も、考えられている印象を受ける。ただし、どの辺りの読者層を想定しているのか、若干見えづらい部分がある。実力はあると思うので、極端に飛んだものを書くか、読者を絞りつつも、その実、門戸が開いているという作品を狙って書くと良いのでは。

海賊にとらわれた主人公が戦いに身を投じるうちに、それまでの立場に疑問を持つことになるというプロットはシンプルだが、それ故普遍的なものがある。文章も安定しており、エンターテインメント小説として一定の水準をクリアしている。ヒロインにあたる伊世が最初主人公に敵対心を抱くなど、細かなエピソードを積み重ねている点も丁寧。

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水兵リーベ僕の艦 / 時武ぼたん(ときたけ ぼたん)

あらすじ

練習艦「あやぐも」に着任した小菅千春三尉は、あるとき艦上で幹部の帽子が紛失するという事件に遭遇する。同期の小山田によると、どうやらそれは千春を含む「ウェーブ」と呼ばれる女性陣が着任していることを不満に思った面々による嫌がらせだったらしいのだが、その後も艦隊の演習を妨害したりする「事故」が連発する。そんな中、ウェーブである楠木三曹が、ウェーブ嫌いで知られる宮内三曹と付き合っており、おまけに楠木三曹が妊娠しているらしいとの情報が入ってくる。

二次選考・選評

小気味よい文章で描かれた登場人物たちが素晴らしい。海上自衛隊の練習艦を舞台に主人公の着任以降、立て続けに艦内で起こる不可解な事件を軸に水兵たちの日常がきめ細やかに語られるのは圧巻。考証もしっかり行われており海上自衛隊のリアルな日常が体験できる。ミリタリーものが注目されている今、商材的にも適した内容だと思う。

練習艦に勤務する女性自衛官という特殊な設定のもとで、男性原理の支配する閉鎖社会で起こる若い女性たちの行動・心理描写はよくできている。女性自衛官も普通の女性だということは十分伝わったが、タイトルが安易すぎて萎えた。「自衛官+若い女性+閉鎖空間」という設定を象徴できるタイトルがついていれば佳作レベルだっただけに残念。

作中の専門用語の取扱、説明の仕方にもう一工夫必要がある。小さな事件の積み重ね方やそれに伴う作品構成がうまい。そういう構成にすることで、読者を飽きさせないし、緊張感に緩急をつけている。また小さい事件ではあるが、船上ゆえに容疑者が絞られること、動機に関すること、など舞台設定が生きた物語作りがされている。

小気味よい語り口と次々に事件が起こるテンポのよいストーリーが最大の魅力。事件の謎についてはそれぞれ小粒ではあるものの、自衛隊という舞台設定やキャラクターの特徴を生かしたものになっており、その点は評価したい。また、自衛隊が題材だからといって国防レベルにまで風呂敷を広げず、あくまでも「日常の謎」としてることも、より多くの人の共感を得ることができるだろう。男社会で悪戦苦闘する女性主人公という側面も、そうした共感を呼びやすいかもしれない。

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ガンテツ / 山田英樹

あらすじ

1999年6月。ノストラダムスの大予言まで一ヶ月と迫ったある日、都内でテロが発生する。そのさまを目の当たりにした真希は、間一髪のところで父・轍冶に救われるのだが、そのときの父の姿は1964年、東京オリンピックの開会式に現れた「大鋼人」とそっくりだった。当初はテロ組織の犯行と思われた事件には、異世界人の介入があったことが明らかになるが、それは姉の亜希と美希、さらにはかつて轍冶が惚れた異世界人・ナナとうり二つな少女・七海を巻き込んだ戦いの幕開けに過ぎなかった。

二次選考・選評

アニメチックな雰囲気がプンプンする破天荒ロボットアクション。35年前に突如、東京に現れた大鋼人と大鋼獣。激しい戦いののち、どちらも地下深くで眠りについたが、今また目覚めの時が近づいていた……荒々しい文章ながら熱血ストーリーは読むものを惹きつける。

2クールもののアニメの原作としてよくできている。前半はビジュアルの描写に優れており、戦闘シーンのイメージが浮かびやすい。黒岩製作所が要塞となって空中に浮上するシーンにはカタルシスがある。小クライマックスの後に長い回想が挿入されるのも、アニメっぽい構成。

表現方法が、小説の文法というよりも、シナリオのそれに近い印象。それにも関わらず、何か引きつけるパワーがある。物語を構成しているそれぞれのパーツ単体は、どこかで見たことのあるようなものが多いのだが、ある意味では王道路線の中に、それらをうまく組み合わせ配置させていることで、既視感の中になぜか初めて見たような印象を与えてくれる。

異世界人との戦い、「大鋼人」の秘密、家族の絆といった要素がこれでもかと盛り込まれている物語の面白さは随一。第1章では現代を舞台にした三人称、第2章では過去の一人称といった使い分けがされてるなど、読者の興味を持続させようとする作者の工夫も評価したい。

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蝶の舞うリング / 安西景子(あんざい けいこ)

あらすじ

雨の公園で、やくざにリンチをくらっていたところを、女子プロボクサーの月島華恵に助けられた川越周助。彼は、華恵に勧められるまま、ボクサーの道へと進み、そして、華恵に惹かれていく。華恵が防衛戦で勝利すれば結婚することにした二人だったが、その防衛戦で、華恵は帰らぬ人となる。その死に対戦相手の所属ジムの選手・英吾の謀略があったことを突き止めた周介は、英吾をリングの上で正々堂々と倒し、すべてを明るみにしようとトレーニングに励む。

二次選考・選評

単純明快な復讐ストーリーだが、マンガアニメ的な雰囲気で暗さがなく好印象。ケンカに明け暮れていた主人公・周助が運命の女性・華恵と出会い更生してボクシングの道を目指すが、結婚を控えた華恵はボクシングの試合中に命を落とす。無事に復讐を果たすエンディングは読後感もすばらしいが、すんなり読み終えてしまうのが物足りなくもあるか。

実際にボクシング経験のあるだろう作者による、ボクシングのための小説。女子ボクシングというあまり馴染みのない世界を舞台に、登場人物を絞り込んだプロットはうまくできている。書き出しでボクシングというスポーツの説明にややウェイトが置かれすぎているが、書きたいことが明確で、ボクシングに対する熱意と愛情は十分伝わってくる。小説単体としての出来は高い。

王道路線のストーリー、キャラ造形の良さ、スポーツ要素、恋愛要素等々様々な要素が詰め込まれているが、きれいにまとめられていて好感触。テンポよく物語も進んでいくので、一旦、物語に入り込めば、以降は、すーっと読んでいくことができる。ただ、このテンポの良さが、この作品の悪さにもなっていて、あまりにも展開が早い。キャラの関係性や心理変化をもう少し丁寧に描いても良いのではないだろうか。

ボクシングに出会った主人公の成長物語というメインプロット、そこにヒロインの死を絡めるという展開はいい。だが、あらすじをなぞったようなストーリー、シンプルというよりは稚拙な印象を受ける文章は再考の余地あり。

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